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読書 三崎律日 奇書の世界史

面白かった。奇書とは書かれているが、どちらかというと時代の移り変わりの端境期に出てくる、それまでの世界とは相いれない思想、あるいは時代のはざまだからこそ世に出ることができてしまった奇想、そして、それにまつわる本を紹介した一作。

夢野久作の一連の作品やクトゥルフ神話体系のように、狙って作られた奇書、異形の書ではなく、図らずも奇書になってしまった本がまとめて紹介されている。

個人的には18世紀ジョルジュ・サルマナザールが執筆したといわれる『台湾誌』のエピソードがお気に入り。このサルマナザール、自らを台湾人と名乗り、台湾語を話し、そして当時のヨーロッパにとっていまだ謎多い土地だった台湾の文化や歴史を台湾人の視点から描き上げ、一躍時の人となった。 

だが、その内実は全くのでたらめ。南フランス生まれ、やけに弁が立つ以外にはこれといった能のない男であるこのサルマナザール。一度も台湾に行ったことがないにも関わらず伝聞や資料を基に、妄想で台湾を作り上げてしまった。

加えて彼は自身で作り上げた謎の台湾語をあやつり、台湾人と名乗る。しかも、パトロンを見つけ出し、言論の世界を駆け上がっていくのだ。アメリカのブラックコメディのような話である。

今考えればただの笑い話。だが、外界の姿を知ることが困難、場合によっては自らの命を代償とするよりも重かった当時、もしかすると、書物に残っていないだけで、大小とわずいろいろなサルマナザールがいたのかもしれない。ペテン一つでのし上がる。なんだかロマンのある話だった。やっていいことかどうかは全く別の話として。

本書自体はよくある本の解説本のような難しい文体で書かれたものではない。著者自身がyoutuberとして公開していたものをまとめた作品だ。誰でも見られる媒体で公開していたものをもとにしているだけあって、文体も平易でわかりやすい。本が苦手な人にも手に取ってもらいたい感じ。おすすめだ

終わり

 

奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語

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