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西成にいった

どうにも正月休みボケをしてしまっていた。そんな自分をしゃっきりさせるためではないが、旅行に行くことにした。旅行といっても一泊二日だけだけど。

行ったのは大阪西成。東京の山谷、神奈川の寿町と並んで日本3大ドヤにも数えられる町だ。山谷、寿町は言ったことがあるけれど、西成は距離的に遠いこともあって未履修だったのだ。この際だからとインターネットで新大阪行きのチケット購入して、西成に向かうことにした。

西成が位置しているのは鉄道の駅でいうと天王寺動物園の最寄り駅でもある地下鉄御堂筋線動物園前駅の近く。あべのハルカスがある天王寺駅からも歩いて行ける場所だ。新大阪から御堂筋線に乗り、まずは宿を取った天王寺駅へ行った。

宿は一泊4000円くらいのビジネスホテル。宿代をケチるくらいなら、ドヤを探して泊まればよかったのかもしれないが、そこまでの心の余裕はなかった。チェックインをすませ、部屋に荷物をおき、ちょっと一息。グーグルマップで道を調べ、西成に向かった。

飛田新地の姉ちゃん


ただ、西成にすぐに向かうのもなんだか違う、そう思ったので、西成の前にちょっとよりみちをすることにした。

西成も有名だが、天王寺駅の近くには赤線の名残である日本有数の遊郭である飛田遊郭、通称飛田新地があるのだ。 

この飛田新地、建前上は料亭が立ち並んでいるということになっている。だが、ご存じの通り、ここにあるのは本番行為が当たり前の風俗。法の隙間を縫って生まれた、2階で自由恋愛の名のもとに性行為ができてしまう料亭が軒を連ねているのだ。

碁盤の目のように区切られた街にはいたるところに白い提灯を入り口にぶら下げた”料亭”が所狭しと並んでいて、うろうろしていると、「兄ちゃん、遊んでいきなよ」「ええ子、いるで」四方八方から声をかけられる。

入り口入ってすぐにあるピンクのネオンに彩られた料亭の入り口の下では、かっぽう着姿のおばちゃん(たまに老婆)そして下着姿だったりコスプレを着ていたりする、若い女性が座っていた。この若い女性が相手をするわけである。

よく芸能人を目指している、あるいは目下芸能活動中、という女性が訳アリで飛田新地で仕事をしている、だから美女が多いとの話を聞く。噂程度だろうと思っていたのだが、実際見てみると確かにそうかもしれなかった。中々見られないような美女がたくさんいるのである。

しばらく街を眺めていると、そんな美女たちに吸い寄せられるように、男たちが料亭に入っていく姿が目に入った。

僕はといえば、まともに女性としゃべった経験がないような人間なのに加え、30分の性行為に2万円を払うというのは懐的にはとてもじゃないが無理だった。たまにちょんの間を見ながらも、視線があうとなんだか心持が悪くなってしまう。結局何もすることなく、速足で白い提灯のぶら下がる飛田新地を後にした。もっと頑張って、飛田新地をみておけばよかったかもしれない。まあいいか。

四角公園とパークホテル


飛田新地から少し歩いていくと、アーケード街が見えてくる。今度はいたるところに飲み屋、カラオケ屋。どうやらここが西成らしい。

当初は寿町とか山谷のイメージ、様子するに町の中にそういう区画がある、という想像をしていた。町中を歩いていると、唐突にドヤ(簡易宿泊所)がたくさん出てくるような感じ。

だが、そんなことはなく、一見するといたって普通の町だった。行政的にも区長がいるほどの規模。ほかの二つとは明らかに違う。ドヤ街らしいというところでいうと、しいて言えば飲み屋やカラオケ屋以外の店がほとんど見当たらなかったということくらいだろうか。

ただ、しばらく歩いていると、その辺で一物も隠さずしょんべんをしているおいちゃんや虚空に向かって吠えるおいちゃん、「ぶんぶんぶん」といいながら、自転車をこぐ焦点のあっていない目をしたおいちゃんなど、ネットのスラングで見たような人たちが出現、ここが西成なのだと実感した。

そのまま、街を歩いていくと周囲にはホテル、とは名ばかりの1泊千円で泊まれるような宿泊施設。もちろんそれらは、ホテルなわけもなく、みんなドヤである。

最近は外国人観光客が安い宿を求めて、なんて話もあったが、別にそんな雰囲気はまるでない。ドヤの入り口には汚いニット帽をかぶったおいちゃんや歯のないおいちゃん、目つきの危うい若者などがいて、ぼうっと突っ立っていたり、酒を飲んだりしていた。

うろうろしていると西成のちょうど真ん中くらいにある通称四角公園と呼ばれる公園にたどり着いた。公園の中には周囲を囲むガードレールに沿った形でブルーシートでできたおうちがあり、真ん中ではおいちゃんたちがドラム缶で焚火をしていた。

ここが、よく書籍やメディアで取り上げられる場所らしい。おいちゃんが酒盛りしているおいちゃんが突然「おうあう!」と大声で叫びだすことを除けば、まあよく見る、治安の悪い公園。昔は違ったのだろうが、今はそれほど物騒な感じはしなかった。

ちなみにすぐ近くには、パークホテルという1400円で泊まれるホテルがあった。ここは普通にウェブサイトもあり、どうやら一応ビジネスホテルらしい。このホテルに泊まったというブログ記事もちらほらある。名前にはいろいろ思うところはあるが、西成が一望できるほどの高さ。次に来たら泊まってみたい。

玉手メシ 

歩くのも疲れたので、西成から宿に戻ることに。その折、近くで見つけた蟲を寄せる誘導灯みたいな色のスーパー玉手によって飯を買った。ここも西成なら玉手といわれる場所である。安くてうまいもんいっぱい、みたいに紹介されることも多い。

確かに安いし、装飾でごてごて、主婦と思しき女性に交じって、西成に住んでいるらしいおいちゃんたちが買い物をしている。だが、それらを除けばその辺にあるごくごく普通のスーパーだった。時給も悪くない。まあ大阪にいくつも店舗もあるらしいし、そりゃそうか。

惣菜コーナーで128円のお好み焼きといくつかのおかずを買った。確かに玉手、量が多い。よくサイゼリヤで3000円使って豪遊、なんていうが、そんなレベルではない。玉手なら3000円だとだいぶ使い出がありそうだった。少なくとも一人二人で食いきれる量にはならないという感じである。玉手おそるべし。

ちなみに味は値札に書かれていた”ごっついうまい”というほどのものでもなく、まずいかといえばおいしい、ごっついうまいかといえばそうでもない、という感じ。まあ価格にしたらよくできている。この値段なら全然ありだ。

買って帰った玉手メシをホテルで食いながら酒を飲んだ後、ビジネスホテルにある大浴場につかり、初日は終わった。

労働福祉センター

翌日、朝早起きして、再度西成に向かう。訪れたのは労働福祉センター。個人的に一番見たかった場所である。過去に暴動がおこったりのもここだし、朝、日雇い仕事のあっせんがあるのもここだ。西成、というと必ず紹介される、ある種象徴的な場所である。ここでどのように西成の営みが行われているのか見てみたかったのだ。

センターの近くに来ると、町の中とは雰囲気が違った。町の中には高齢者の酔っぱらったおいちゃんばかり。どうしようもないけれど、どこか楽観的な雰囲気があった。だが、ここには20代くらいの若い男性、中年の男性もいて、なんだか鬱屈として、そしてどこかピリピリとした張り詰めた空気を感じた。

周囲をぐるぐる回っていると、左翼活動家と思しき人間が演説している姿が目に入る。「労働福祉センターは! 労働者にとって必要だが! 行政は何も考えずに、壊そうとしている!」そんなようなことを拡声器を使って訴えかけていた。

周囲では老若男が、熱心に聞くでもなく、無視するわけでもなくぼぅっと彼の話を聞いていた。

福祉センターの周りには車が止められていて、フロントガラスには警備8500円 土工11000円、と一日の値段と仕事の内容、場合によっては必要な資格を書いた張り紙が貼ってあった。これが俗にいう日払い仕事のあっせんらしい。

そばにはガタイのいい、野郎然とした30代から40代くらいの男性が立っていて、労働者を探していた。この車に乗って、現場へ連れていかれるようだ。この辺は東京も変わらない。僕も東京では日払いの労働者を詰め込む車に詰められたことがあるので、妙に感慨深くなった。

スパワールド

しばし周囲を散策し、西成を後にすることに。

西成のすぐ近くには通天閣を要する、大阪随一の繁華街、新世界がある。歩き疲れていたので、通天閣のすぐ近くにあるスパワールドというスーパー銭湯に行くことにした。

このスパワールド1300円で時間無制限でサウナ、露天風呂、各種温泉が楽しめるし、プールも使える、中にはジムまであるというやばい施設。(おすすめ)湯舟に浸かったり、サウナに入ったりしてぼうっとした。

周囲に目をやるといろんな顔が目に付く。家族連れ、駅に近いこともあって観光客の姿もちらほら。みんな思い思いに楽しんでいる。

楽しそうな風景に穏やかな気持ちになる一方で、目と鼻の先に西成があるのに、その存在がまるで忘れられているようだ、そんな考えが頭をよぎる。もしかすると、これは僕が過剰に意識しすぎているだけで、大阪の人は西成、という町を当たり前にあるものとして受け入れていて、そんなに気にしていないのかもしれないのだが、実のところどう思っているのか、妙に気になってしまった。

そんなことを考えたり、考えなかったりしながら2時間ほどゆるゆるとすごし、施設を後にし、そのまま新大阪駅へ向かった。自由席のチケットを買って新幹線に乗る。両端をビジネスマンに挟まれ、揺られながら、改めて西成について考えてみた。

正直なところ、そこまで物騒な場所ではなかった。とはいえ、町の本当の顔はわからない。市橋達也を含め、名だたる犯罪者が潜伏していたなんて話は枚挙にいとまがないと聞くし、数年前くらいまでは薬の売人がそこかしこにいたともいう。

西成に潜入取材したルポライターの言うところには、いまでもそこら中に売人がいるらしいし、四角公園の近くにはやくざの事務所もあるのだとか。日雇い労働者が向かう現場では、人権なんてものはまるでなく、高所から落ちて死んだり、クレーンに首がひっかかり、もげてしまった、なんて話もあるそうだ。事実と西成という町が生んだフォークロアのようなものが混じっているんだろうが、容易に語れない面は今でもあるんだろう。

歩く人の中には中央アジア系の若い男性の姿もあった。もしかするとより一層、内部は混とんとしていっているのかもしれない。

だが一方で、どうしようもない人間でもなんとか生きていける、最後の最後の砦としての町の力も感じた。歩いている若者はギャンブルや風俗の話、歯のないおいちゃんは自販機で酒が購入できず、200円を近くにいた別のおいちゃんにせびる。そんな人たちに食事を配る人。おいちゃんの車いすを引くおいちゃん。

どんな人間でも、とりあえず、ここでは人として存在できる、そんなおおらかさがあるような気がした。まあ次の瞬間には大変な目にあっているかもしれないけど。

何かあったら最後に西成がある。なんだか悪いような悪くないような。僕もどうしようもないので、そのうち西成に行くことがあるのかもしれない。本当にどうしようもない人間になってしまったら、あの顔ぶれの中に並んで暮らす、そんな選択があっても悪くはないような気もしてしまった。

勿論そんなに世の中は甘くないのだけれど。

おわり

 

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