おにぎり難民になった
お昼に限らず、大体私は自炊している。別に松屋の牛丼や中華一番屋が私の舌に合わない、なんてグルメな理由ではない。「安いからだ」この一言に尽きる。
お昼には大抵、前の晩に作った夕飯のおかずお残りと米をジップロックに入れて持っていく。これでオーケー。だが、もちろんたまには自炊が面倒なこともあるし、ついつい忘れてしまうこともある。おっちょこちょいだから。
そんなときはコンビニでおにぎりを買うようにしている。いつも買うのは鳥五目と高菜のおにぎりだ。この組み合わせはそうそう揺るがない。ガリバタチキンが出てた時はちょっとゆらいだけど。
何故この組み合わせが揺るがないかと言えば、味もさることながら、大体どこのコンビニでも味は微妙に違いこそすれ、大体売っているからだ。値段も安いし。
「あー、セブンじゃ売ってないからファミマいかなきゃ」なんて面倒な思いをしなくて済む。というわけで本日、弁当を持っていくのを忘れた私は、いつものおにぎりセットをファミマで購入した。200円ちょっと、安心のプライス、安心の味である。
だが、困った。何が困ったか、食べるところがなかったのである。イートインコーナーでおもむろにおにぎりをモフモフするのが、おにぎり購入時の私の常であるが、本日、イートインコーナーは満席だった。いつもは空いているのに、今日に限って。
席が空くのを待つことも考えたが、時間はお昼時。コンビニには次々と人がなだれ込んでくる。待っているのも何だか申し訳ない。そんなわけで、私は外に出ることにした。「ちょっと腰かける場所くらいあるだろう」私は安易に考えていた。
だが、歩けどもあるけども、周囲にはいい感じに座って食べられる椅子はない。いつもイートインで食べていたから周辺の確認を怠っていた。「ぬかった!」私はそう思った。
やっと見つけた近くにある場所は寺だけだった。寺の庭には椅子があった。「やった!あそこで食べられる!」そう思った。だが、はたと気づいた。「寺でおにぎり、めっちゃ迷惑やん」と。
しかも鳥五目は別として、高菜のおにぎりは海苔がパリパリのやつだ。黒い点々を寺の敷石にぶちまける危険性だってある。「だめだ、寺はだめだ」私はそう思った。
こうして私のあてどないおにぎり難民としての旅が始まった。私は街をさまよい歩いた。20分程度の旅を経て、私はとうとう見つけた、オアシスのような場所を。そこは雑居ビルの裏にある階段だった。他にいい感じにサンドイッチとかをむさぼっている人もいたので、問題はなさそうであった。
私はどっかと階段の淵に腰を下ろし、おもむろに「ぴりり」とビニールの袋を剥き、むき出しになったおにぎりにかじりついた。
いつもは、特に自炊でない場合の昼食は、正直単なる栄養補給に過ぎないきらいがあるのだが、本日は違った。うまかった。おにぎりめちゃくちゃうまかった。コメの一粒一粒が五臓六腑に染み渡るようだった。
たった二つのおにぎりでも、たった20分ほどのおにぎり難民体験でも、経験してから食べるのでは大違いだったわけである。
5分ほどで一気におにぎりを胃の中に流し込んだ私は「よし、頑張ろう」と職場へ向け歩み始めた。とはいえ、また歩き回っておにぎりを食いたいかといえば別である。イートインコーナーでぬくぬく食べたい。
ではでは