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坂口恭平 モバイルハウス 3万円で家を作る レビュー 家の概念を変えれば人は楽しく生きられるのかもしれない

何故家に住むために人はお金を払わなくてはいけないのか。もちろん、連綿と長く続いてきた制度上から、そこに疑問を挟む余地はなくなってきている。

 

だが、実際のところ土地を持っている人間が場合によっては巨万の富を抱き、場合によって彼らが所有する家に住む人間は礼金なんてよくわからないものを払わなくてはいけない。そんなことを考えると、なんだかひどく不思議に思えてくる。

 

そんな疑問が本書のスタートだ。もちろんフリーライダーの問題もあるだろうし、著者の0円で何とかしようという考え方は単純に支持することは難しい。だが、本書は家を借りて、あるいはローンを払ってまで家を購入してそこに住むそんな”当たり前に広がっている”概念を覆すような思考上の体験を読者に与えてくれる。

 

筆者のすごいところは、疑問を感じたら、歴史書を読み漁って思想書にしたりなんてことはしないところに

 

筆者はじゃあ「俺がほとんどお金をかけずに家を作ってみればいいじゃん」というところに行きつく。とにかく実践者なのだ。

 

そしてたどり着いたのが、筆者が初期から思索の対象としてた0円で暮らすホームレスたちである。

 

彼らは何らかの理由で住む場所を失った。社会的に見れば落後者なのかもしれない。だが、彼らは0円で家を建てそこに住んで生活をしている。

 

筆者によれば、生活の極限状態に置かれたからこそ、ホームレスとなった人たちは一般的な常識のとらわれず、思考の革命を起こさなければ生き残っていけなければならなくなる。だからこそ常人には及びがつかないような発想を生み出すのだ。

 

筆者は彼らが作る極小の生活に必要十分な機能を備えた家に着想をえる。ちなみに筆者は当初これ以前の著作しかり0円で拾ったもので家を作ろうとしたそうだが、くだんのホームレスに「0円じゃ本当に気楽に家がつくれるようにはならないよ」と指摘を受け、ホームセンターで3万円で購入できる材料で家を作ることを決めたという。

 

だからこそ本作があるわけだ。そして車輪がついて運ぶことが可能で、小さいながらも十分な機能が詰まったモバイルハウスを筆者は作り上げる。十分に暮らせる空間だし、ソーラーパネル搭載で電気もつかえてしまう。はたから見ていると理想の空間、というには少し窮屈そうでもあるが、快適に生活できそう。そんなモバイルハウスを。

 

本作の中で筆者が行う思考実験はこれだけにとどまらない。著者は家ならば住所も必要だと、このモバイルハウスを実施に家として活用するべく、奮闘する。

 

実際のところ、住民賞を登録するところまではいかなかったようだが、駐車場に居を構えることは成功し、行政上のものではないが、ポストをつけ、仮の郵便番号を手に入れることで著者の本拠地である熊本から郵便を届けることにも成功する。

 

そこからは東日本大震災もあり、紆余曲折の時期に入るわけだが。

 

途中少々本題からずれることがあるものの、本書はなぜ人は住居にお金を払わなくてはならないのか、そもそも住所とは何なのか、あるいは住まうこととはどういう意味なのかを考えるうえで気づきを与える一作であると思う。