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うつ病九段を読んだ

 羽生世代の名棋士として知られる先崎学九段。彼が2018年うつ病を患い棋界を離れていた1年間、事の起こりから回復までの顛末を先崎九段本人がつづったエッセイである。2016年から2017年に棋界を揺るがせた「ソフト不正使用疑惑事件」。その後地に落ちた将棋人気を何とかすべしと先陣を切り奮闘していたのが先崎九段だった。折しも監修を務めた人気漫画『3月のライオン』が実写映画化。気を上げ一人で奮闘していたのだが、仕事は徐々に先崎九段の容量を超えていく。次第に追い込まれ、ついには原因不明の体調不良に悩まされてしまうところから始まる本エッセイ。

 たんたんと感情がなくなり、日々重いうつに悩む自ら、そしてそれに対する家族や仲間の目、それをあたかも俯瞰しているような突き放していくような口調でつづられる、前編。

 回復に差し掛かり、今度は自らの失ってしまった勝負師としての力に気づき自らの今後の身の処し方をどうすべしか、棋界を離れるか否か、苦悩する中編。

 そして回復のめどが立ち、世界が色を取り戻したように、生き生きとした口調に代わる後編。文体によって1年間の様々な揺れ動きがわかるような内容になっていた。

 週刊文春などでも連載を持っている名エッセイストとしての先崎九段の腕がなったという感じである。

 単純に読み物としての面白さだけでなく、時に情報が独り歩きするうつ病が、実際には当事者にとってはどのような病であるのか。感情の動き、回復への道程や家族、知人とのかかわり方、当事者でない人間でもわかるようになっている。

おもしろかった。