いつみても適当

ブログです。

世界一ラーメンをうまくすする外国人に出会った

ある日のお昼頃、私は腹を空かせ近所にあった日高屋に駆け込んだ。絶品、というわけでもないのだが、いつも変わらないあの味。それを私の胃袋は求めていた。

 

とはいえ、お金もそんなにないので、頼むのはいつもチャーハンか中華そばなのだが。

いきなり頼むのも何だか尺なので、しばしカラフルな日高屋の品書きに目をやっていると、ひとりの男性が店に入ってきた。

 

彼は店に入るなり、すすすと歩いていき私から右に2席ばかり離れた席に腰を下ろした。ちらっと顔を見てみると金髪に碧眼、どうやら外国の方らしい。

 

「ふーん外国の人が増えているとは言うけれど、日高屋とかにも来るんだなぁ」なんて感慨に浸っている私をしり目に、男性は品書きに一瞥もくれず、座ってすぐ、店員さんを呼ぶため、ボタンを押した。どうやら頼むものは決まっていたらしい。

 

店員さんが来ると、その男性は一言「豚骨ラーメン、餃子セット」と無骨に注文を告げた。発音から、日本育ちの方ではないようである。だが、店には通いなれているらしい。私も彼に触発されて、麺が食べたくなったので、中華そばを頼むことにした。

 

メニューが届くまで待っていると、まず先に男性の元に餃子が届いた。先ほどの日本の企業戦士をほうふつとさせるような無駄のない注文で男性への興味がわいていた私は、失礼を承知で視線を察せられないように彼を見てしまっていた。

 

男性の方はというと、手慣れた手つきでお酢を取り、「こんこん」と容器をテーブルに当てた後、少量のお酢をすっと小皿に垂らした後、流れるような手つきでお酢の横にある醤油を手に取り、これまた容器を「こんこん」とテーブルに当て醤油を小皿に注いだ。

 

碧眼の男性はお酢の後に醤油を入れるらしい。なかなか通である。手つきから見るに、かなり中華屋さんを使い慣れている。箸の持ち方も教科書通り、と言っていいくらいきれいで、食べ方もきれいだった。男性からは町の中華料理屋さんでたまに目にするいい感じのおっちゃんのような風格すら漂っていた。

 

そんな様子を見てしばらくしていると、男性の元に豚骨ラーメンが運ばれてきた。男性の一挙手一投足が気になっていた私は「どうやってラーメンを食べるんだろうか、すするのかなぁ」なんて思って、ちらりと目をやる。男性はきれいに麺を箸でつかみ、蓮華にちょんちょん、とした後、すっと口に運んだ。

 

「ゾゾ、ズゾゾ!、スー!」と日本人でもなかなかお目にかからないくらい豪快に少し縮れた中太の日高屋の麺を男性はすすった。豪快でありながら、音は不快ではない。麺を口に含んだ後も、くちゃくちゃするでもなく、口を開けて食べるでもなく、実にきれいな食べ方だ。

 

私は思わず「おおぉ!」と感嘆の声を上げそうだった。「世界一ラーメンをうまくすする男で賞」があるなら、彼が間違いなく世界一うまくラーメンをすする男だろうと思ったくらいだ。

 

ほどなくすると私の元にも中華そばがやってきた。私はと言えば、そばにいる日本人よりもうまくラーメンをすする男性に自分の食べている音が聞かれるのが恥ずかしくなり、「すすすっ」と小さな音でラーメンを食べていた。

 

私がラーメンを食べ終わるころにはすでに男性は日高屋を後していた。食べ終わりも汚くない。立つ鳥後を濁さずを字で行くようである。見事だった。

 

彼は今どこで何をしているのだろうか。今日も中華屋さんで他の人間を感嘆させているのだろうか。年越しのどんべぇをすすりながら私はそんなことを思っていた。おわり