いつみても適当

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さつまいもを絶叫する男に出会った

中野駅近くの路地を歩いていると、前から耳を疑うような声が聞こえてきた。

「なに!?さつまいも!!え!?さつまいも!?」

 

ベージュ色のダッフルコートにツーブロックヘアー、おしゃれな風体をした若い男性が大声で叫んでいた。声には怒気も含まれており、ただならぬ雰囲気だ。

 

土地柄ちょっと怪しい人が多い場所に住んでいるので、「こいつ最悪、みんなに迷惑かけてるってわからないのかよ」とカフェで大声でスマホに話しかけるおばちゃんを見かけたり、どう見ても素面なのに「コノヤロー!」と叫びながら電柱にローキックをお見舞いするサラリーマン風の男性を目にしたりするなんてことはよくある。

 

みんな少し頭がおかしいのかもしれないが、背景にあるものが多少なりとも理解はできる。そのためか、遭遇しても、そこまで恐怖を抱くことはなかった。

 

だが、今回は別だ。男性はおしゃれで、かつ容姿端麗。そんな男性とさつまいもとの間に、どのような因縁があるのか全く分からない。何故さつまいもを叫んでいるのか、そして怒っているのか、皆目見当がつかない。

 

この意味不明さを理解しようと、私はない頭を精いっぱい巡らせ、猿かに合戦の如くさつまいもに人間が殺される姿を想像したり、蒸発した男の父親がさつまいも屋として生計を立てている姿を想像したりした。だが、一向に不安感は消えない。

「こいつはやべぇ」私は底知れぬ恐怖を感じた。

 

だが、さつまいもの男はじりじりと私の方に近づいている。逃げ出そうにも、もう走っても逃げきれなさそうな距離だ。私の背中に冷たいものが走った。

 

今やさつまいもの男は目の前にいる。ただ、最初の「さつまいも!!」の叫びからは落ち着いてきたようで、何やらつぶやいてはいるが、不気味さはそれほど感じない。そんな様子を見て、余裕も出てきた私は、もう少しさつまいもの男を観察してみることにした。

 

よくよく見てみるとさつまいもの男はイヤーポッド風のワイヤレスイヤホンをしていた。どうやら私は勘違いをしていたらしい。話の内容は気になるが、さつまいもの男は単に電話をしていただけのようだった。

 

「さつまいもに底知れぬ恨みを抱いている危険な男ではなくてよかった」私はほっと胸をなでおろした。そんな私の傍をさつまいもの男は香水の匂い振りまきながら、さわやかな顔で通り抜けていく。

 

しばらく歩くと、後ろからまた大きなさつまいもの男の声が聞こえてきた「もー!先に言ってよー!さつまいも買っちゃうところだったじゃん!」

 

どうやら、さつまいもを買うか買わないかで男性と電話の主との間で行き違いがあったようだ。実にたわいもない会話だったわけである。そんなこと公衆の面前で大声で電話しないでほしい。まぁさつまいもは無駄に買わなくてよかったけど。